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更新日:2024年2月15日

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性の多様性啓発座談会「LGBTにやさしいまち しずおかを考える ~私たちにできること、今ここから~」

性の多様性啓発座談会(全体)
(左から)
松尾 由希子氏(静岡大学教職センター准教授)
遠藤 まめた氏(LGBTユースのための居場所にじーず代表)
井上 道博氏((株)丸井グループ サステナビリテイ部ダイバーシテイ&インクルージョン推進担当課長)
細川 知子氏((特非)しずおかLGBTQ+代表理事)

※この座談会は、「静岡市性の多様性啓発講演会」(講師:遠藤まめた氏)と同日に開催されました(2020年3月15日)。所属役職は開催当時、本文中は敬称を省略しています。

静岡市では、誰もが生きやすい社会とするためには、性の多様性への理解促進が不可欠であると考えています。今回、当事者・教育・企業・NPO、様々な立場の方にお集まりいただき、「LGBTにやさしいまち しずおか」について、「私たちにできること」を語っていただきました。

誰も置き去りにしないインクルージョンという考え方

井上道博氏

井上:丸井グループは、すべての人をしあわせにするインクルーシブで豊かな社会を作っていくために、社会貢献のボランティアという側面だけではなく、企業活動の中でどう皆さんにインクルーシブな豊かさを提供するかを考えていこうということで、この取組をスタートしています。職種変更の多い会社で、3年に1回はジョブローテーションがあり、様々な仕事に携わっていきます。これも多様性なのですが、私もこの何年間で一つの仕事にとどまらない様々な仕事をしてきています。

弊社は、小売業・店舗のイメージが強いですが、今は金融業・クレジットカード業が中心となっています。「すべての人がしあわせを感じるインクルーシブで豊かな社会」というテーマで、弊社社長の青井が、トランスジェンダーの活動家 杉山文野氏、(株)ミライロ 垣内俊哉社長との対談を行う機会がありました。垣内社長は生まれつき車椅子ですが、「車椅子=障害」ということではなく、「車椅子=歩けないことを価値にしていこう。」という、ユニバーサルデザインで日本トップクラスの会社の社長をされています。一部上場会社の社長、トランスジェンダーの方、車椅子の方が一つのテーブルを囲んで楽しく談笑している、こんな光景が我々が今住んでいる社会、そして我々が営んでいる商業施設に日常的に見られることにより、すべての人がしあわせを感じられる豊かな社会を作っていこうというのが、我々のビジョンです。

一番重要なのが、「誰も置き去りにしないインクルージョン」という考え方です。日本社会は、高度成長期時代に多数派の人に向けてサービスや決まりが作られてきましたが、これからは少子高齢化時代も含め、もっと誰も置き去りにしないよう、多様な人がいる前提ですべてのサービスや決まりを見直していこうというのが、我々の大きな考え方の一つです。

LGBTQの声を聴くことからイノベーションが生まれる

井上:どんな取組をしているかというと、まずはウェルカムを宣言です。すべての人に「どうぞお越しください。我々は本当に来て欲しいんです。」と言っても、やはり「行っちゃいけないんじゃないか。」とか、「自分のことを話したら嫌がられるんじゃないか。」と思われる方が、非常に多いのではと考え、4年程前に、我々から「どうぞ来てください。」という宣言を出しています。そして、企業がやるからにはやはりビジネスに繋げていかないといけない。社会貢献やボランティアだけでやっていると、業績が悪くなってきたら止めてしまうことがあるが、それは非常に良くないので、継続していくためにもやはりビジネスとの繋がりをつくっていこうということで、19.5~27cmのパンプス、そして22.5~30cmのビジネスシューズを作りました。これは元々誰も取り残さないという視点で、パンプスは日本人の成人女性100%のサイズをカバーしていこうと作ったものなのです。ただ、我々が意図しないところで26~27cmのパンプスはトランスジェンダー女性に、22.5cmのビジネスシューズはトランスジェンダー男性に支持していただけました。我々からしてみると、新しいファンやお客様が増えていくということで、喜んでもらえると同時に、こういう方たちから応援していただいているというのが現状です。

この22.5cmのビジネスシューズは、東京や九州のレインボープライドにブース出展した際に、大学生のトランスジェンダー男性の方から「こんなところに22.5cmのビジネスシューズがあったんですね」と驚かれました。これから就職活動をしていこうという方で、日本社会はそんなに自由に出られる社会になっていないので、大学までは女性として生活されてきたそうなのですが、第二の人生は自分らしく生きたいということで、就職活動から男性として活動していこうとされていました。スーツはオーダーで何とかなったが、靴が全然なかったということで、これを見つけてその場で買っていただき、「これでやっと自分に自信を持って就職活動に臨めます。」という嬉しいお言葉をいただきました。

そんなことをヒントに取組を進化させようと、靴だけではなくもっと困っている人がいるのではないかと考え、イージーオーダースーツの仕組を使って、もっと自分らしいスーツの提供をお手伝いしますというトライアルを有楽町店で行いました。この時はたくさんのトランスジェンダーの方、特にトランスジェンダー男性の方にメンズのスーツをたくさんお買い求めいただきました。ただ、その時に買っていただけない方がいました。男性とも女性とも自認されていないXジェンダーの方から、「自分に合う初めてのスーツが見つかりました。」と言っていただけたのですが、買っていただけなかったのです。なぜかというと、その方が一番似合うと言ったのは、上が女性用のジャケット、下が男性用のパンツだったのです。男性用と女性用の黒のスーツは、生地が若干違っていたために、セットにならなかったのです。それを聞き、翌年から男性用・女性用のパターンや生地を組み合わせて作れる仕組に変更しました。

何を言いたかったかというと、トランスジェンダーやLGBTQの人たちを支援するということではなく、そういった方たちの声を聴くことにより、我々にとってもイノベーションが生まれるということです。今、そのスーツはトランスジェンダーの方だけではなく、女性でメンズっぽい格好をしたい人からも支持をいただいています。

また、トランスジェンダー男性の方の例ですが、最初は男性用の生地・男性用のパターンでスーツを作られたのですが、翌年は「もっと自分に合うスーツが欲しい。」ということで、販売員が悩んだ挙句、「男性用のパターン・男性用の生地で作るより、女性用のパターン・男性用の生地で作った方が、素敵なスーツができると思います。」というアドバイスをしたところ、そのスーツを着た時に周りの友達から「すっげーかっこいいじゃん。」と言われたそうです。その方は、「自分の方が性別に捕らわれ過ぎていて、『男性物を着たい、男性物を着たい』と思い過ぎていたのだけれど、本当に自分らしいスタイルというものが何か分かった気がします。」と言われ、逆に我々も様々な経験の中から知識が生まれています。

昨年GENDER FREE HOUSE(ジェンダーフリーハウス)というイベントを開催し、レインボープライドでは、19.5~27cmの女性用パンプスと、22.5~30cmの男性用のビジネスシューズを分けて展示したのですが、「もう男女で分けること自体良くないのでは。だからファッションが売れなくなっているのではないか。」と考え、この時は男性用と女性用を完全にミックスして、「19.5~30cmからどうぞ自由に、ご自分の好きな靴を選んで下さい。」というトライアルをしたら非常に好評で、3千人以上の方にご来場いただきました。

その中で特徴的だったのが、男性の方が22.5cmのシューズを買われたのですが、その方はトランスジェンダーではないが足が小さく、いつも男性用の売り場でなかなか自分に合う靴がなかった。ただ、女性用の売り場で靴を買うのは、非常に苦痛なのでなかなか買えず、スニーカーしか履けなかったということでした。これはファッション業界のほうが性別に捕らわれ過ぎて、逆にお客様を選別してしまい、ビジネスが伸びなくなってしまっているのではないかと思わされる出来事でした。

ビジネスとして多様な人の発想やニーズを叶える

井上:また、「OUT IN JAPAN~あなたの輝く姿が、つぎの誰かの勇気となる。~」という、カミングアウトプロジェクトに全面的に協力しています。日本にはLGBTQをカミングアウトして活躍している大人のロールモデルが極端にいないというのがある側面では課題と言えます。僕も小さい頃そうでしたが、子どもは、例えばプロ野球選手を見て「あんな選手になりたいな。」とか、サッカー選手を見て「こういうふうになりたいな。」というロールモデルを持って自分の夢を紡いでいく。ただ、日本にはLGBTQをカミングアウトして活躍している大人のロールモデルが極端に少ないため、そんな方たちを応援するプロジェクトにも参加しています。
最近では、「プライドハウス東京」という、国際スポーツ大会の時に開催国に作られるLGBTQのコミュニティスペースを全面的に支援しています。我々が一番得意なところで何か合流できないかということで、「プライドハウス東京エポスカード」を昨年9月に発行しました。デザインカード発行料が500円必要ですが、その全額をプライドハウス東京の運営に寄付し、また、カードを使うとポイントが貯まり、そのポイントもプライドハウス東京の運営に寄付することができるという、我々の仕組を使った支援をしています。

我々は社会貢献のボランティアでやっているわけではなくて、多様な人をインクルードする発想で、そこがイノベーションの源泉となっています。今までの多数派だけの考え方でビジネスを進めていくと、閉塞的な今まで通りのサービスしかできないし、企業が発展していかない。多様な人がいることを前提とし、多様な人の発想やニーズを叶えることが、新しい視点になっていくことが、今、我々にとって非常に大きなプラスになってきています。誰もが笑顔になる未来はどんな未来であるかということを、我々丸井グループは考えながら、今様々な活動をしています。

すべての人が「性の多様性」の当事者である

細川知子氏

細川:2013年に市民団体「LGBTしずおか研究会」を立ち上げて、勉強会や交流会を開催してきました。2018年に、これまで以上に地域に根付いた活動をすることを目標にして、特定非営利活動法人となり、「しずおかLGBTQ+」と名前を変更して、現在、啓発活動と交流会事業を中心に活動しています。当法人のコンセプトは、当事者団体とも支援団体とも呼ばない、みんなの団体ということです。すべての人が多様性の当事者なのでこのように考えています。

今年度実施した事業の中から協働事業を3つご紹介します。

まず1つ目が、静岡市性的少数者居場所づくり事業「にじいろカフェ」です。これは今年度から始まった静岡市の事業で、当法人が受託し運営しています。事前申込みなし、参加費無料、ニックネームでの参加も可で、毎月1回開催しています。にじいろカフェは性的少数者だけでなく、家族や友人、パートナーも受け入れており、10代から70代まで幅広い年齢層の参加があります。自分以外にはまだLGBTの人に会ったことがない自認したばかりの当事者が来てくれることもありますし、パートナーがLGBTで、自分は非当事者というパートナー同士の交流も行いました。私もスタッフとして参加していますが、市の事業として実施していることで、参加者が安心して来てくれていると感じています。また、それ以上にこのにじいろカフェの存在は、市がLGBTの存在を肯定的に受け入れているというメッセージになっていると思うので、交流会以上の啓発効果があるのではないかと考えています。

2つ目は、学校向けの啓発ポスター作りの事業です。これは市の教育委員会との協働事業で、市内の公立小中学校全校に「すきってすてき」というキャッチフレーズのポスターを配布しました。学校にアンケートを実施したところ、子どもたちも先生も好意的に捉えてくれたことが分かりました。これは性的少数者の子どもはもちろんですが、対象を絞らずに、皆が多様性の当事者として関心を持てるようなデザインを考えました。自分の周りのあの子やこの子が思い浮かべられるよう、身近に感じられるポスターになっています。このポスターは2年間の事業としていて、1年目はイメージ編で、関心を持ったり会話のきっかけとなることを想定しています。2年目は知識編を制作する予定です。地域団体と教育委員会が協働で児童生徒向けにポスターを作り、啓発活動をしているという事例は珍しいのではないかと思います。このような協働事業を進めることで、子どもたちに必要なメッセージが届けられるのではないかと期待していますし、地方都市のニーズに合った啓発を模索していくことで、静岡市が地方都市のモデルになっていけるよう意識して実施しています。

3つ目は、「知っていますか?LGBTパネル展」で、静岡県人権啓発センターと協働して昨年夏に3週間程度、静岡マルイで実施しました。パネル展示だけでなく、県内のLGBT団体のチラシや、LGBTを特集している県内自治体の広報紙等も展示しました。また、書籍の紹介コーナーを設けたり、付箋を置いてメッセージを貼ってもらう仕掛けも行いました。これまでパネル展は何回か開催していますが、市役所のロビーや福祉のイベント等は来場者がどうしても限られてしまいます。今回は商業施設で開催したので、買い物途中に立ち寄ってくれる若い世代や、これまでとは違う人たちが見てくださり、様々な方からメッセージをいただきました。

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市民局男女共同参画・人権政策課男女共同参画・人権政策係

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