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更新日:2024年2月15日

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性の多様性啓発座談会「LGBTにやさしいまち しずおかを考える ~私たちにできること、今ここから~」(2)

小学校低学年からの意識づけが必要

松尾由希子氏

松尾:教育委員会の取組について、望月教育統括監から伺った話を紹介させていただきます(当初登壇を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症対応のためコメントを頂きました)。

まず学校というのは、男子女子の枠組みが使用されてきた歴史があり、なかなか性の多様性というところまでは意識が及んでいないという現状がありますが、近年は市内の小中学校において、保護者や児童生徒から性の多様性に関する相談が出始めています。教育委員会や学校では、保護者、子どもたち、専門家等と対応を相談するケースが出てきています。例えば、戸籍上は女子であるけれども、中学進学後の性自認に合わせた制服やトイレについての相談等があります。このようなケースが学校で取り上げられるようになり、性の多様性の問題が市内全校でようやく意識されるようになっている実態があるようです。このような背景があり、今、教育委員会で実施し、今後も継続したいという、2つの取組についてご紹介いただいています。

1つは、全教職員に対するeラーニング研修です。教育委員会は、静岡大学の研究者や当事者支援団体のしずおかLGBTQ+と連携し、実態の把握を行い、それを踏まえてeラーニング教材を作成しました。それを昨年度と今年度に実施し、来年度も継続して実施したいとのことです。eラーニングは3つの視点があり、まず1つ目は、「性の多様性についての基礎的な知識を得る」ということ、2つ目は、「当事者である子どもたちへのいじめや不登校の問題などの対応を考える」、3つ目は、「LGBTに関する専門的な知識を持つ他機関との連携の方法を知る」ということです。

2つ目は、私も関わっていますが、教員研修を充実させるという視点です。性の多様性研修ということで昨年から始まり、来年度の実施も決まっています。今年度の実施について、受講者の満足度は非常に高かったという結果が出ており、「基礎知識についてすぐに理解するのは難しいけれども、図や事例を交えての講義だったため、理解が進んだ。」、「支援を必要とする子どもへの対応については、LGBT特有のポイントを押さえたうえで、子どもに寄り添った日ごろの指導でよいという話を聞いて安心した。」等の声がありました。また、校内研修に取り入れたいと感じた先生方もいらっしゃったようです。

今、2つの取組について紹介しましたが、子どもたちから先生に相談があったとしても、学校は先生とその子どもだけで成り立っている訳ではないので、性の多様性について知っておくことが必要になります。そこで、望月先生に性の多様性に関する授業の実施状況などをお聞きしたところ、「性の多様性については、人権教育の中で扱われることが多い。人権教育では外国人、障がい者など様々な観点があり、性の多様性についてもその一つとして対応しているため、なかなか深く掘り下げられない。」、「必要とは認められるが、どのように授業に位置付けていくのかは、各学校に委ねている。」、そして、「現在、中学校や小学校高学年で取り上げられていることが多いが、教育委員会としては、低学年のうちから意識づけが必要なので、低学年のうちから取り組んだ方が良いのではないか。」と考えているとのことです。保護者についても、PTAの研修会などを挙げられています。

協働した方が関心がない人にも伝わりやすい

松尾:細川さんは今様々な機関と協働しています。静岡市や学校からの相談を受けたり、専門家とも繋がっている動きがありますが、その効果や課題についてどのように考えていますか。

細川:協働すると、NPO法人単独では難しい層に情報を届けることができます。例えば、児童・生徒であれば学校経由、SNS以外で情報を得る人であれば広報紙など、幅広い年齢層に届けることができます。事業に取り組む中で、別の社会資源と繋がる必要が出たときに繋がりやすいと考えています。これは逆の場合も同じで、お互い広報したり、繋がる範囲が広がったり、これまで繋がっていなかった人や資源と出会えるメリットがあります。将来的に事業の内容がより深まるという効果になっていくのではないかと期待しています。このほか、単独で事業を実施するより協働して実施した方が、まだ多様性に関心がない人にも伝わりやすいと思っています。どのような分野でもコラボレーションとなると関心を持つ人が一定層いると感じているため、今後の展開の中で意識して進めていきたいと考えています。
次に課題ですが、関心や知識がない相手と協働する必要がある場合、こちらの意図や方向性について相手に理解や納得をしてもらうこと、同じ方向を向いて一つの事業に取り組むことは容易ではないと感じています。また、多くのNPO法人や市民団体が同じかと思いますが、人・時間・資金に限りがあるので、事業展開していく際に相手との様々な擦り合わせを行うことが体力的に難しい現実があります。協働が決まり、事業資金が確保できれば資金の面は解消されますが、全体的な人・時間・資金の課題を抱えています。

松尾:ありがとうございます。次に教育委員会の取組についてコメントさせていただきます。性の多様性だけを学校で扱うのは難しいということでしたが、文部科学省は、性の多様性に関する内容を学習指導要領に含めていないため、性の多様性を扱うための時間を捻出するのが厳しいという現状があると思います。井上さんの話もお聞きして考えることは、性の多様性だけに特化して授業を行う必要はないのでは、ということです。今日、色々なマイノリティの問題があるので、今学校でやっているように、外国人、障がいがある人などを取り上げる際に、一緒にマイノリティについて考えるという方向にしていけばよいのではないかと感じました。授業も大事ですが、授業をやったから安心するのではなくて、遠藤さんの話にあったように、日頃から先生が「性的少数者がいる」、「性の多様性がある」という前提で、普段の言動を取り上げてくれたらと思います。

特別なものと捉えるのではなく、日常を見直すという視点

遠藤まめた氏

松尾:望月先生の話にあったように、小学校低学年からの意識づけが必要なのではないかと感じました。中学年、高学年からやろうとしている学校は多いと思いますが、遠藤さん、どうでしょうか。

遠藤:小学校はそもそもやっていない所が多いのではないでしょうか。

松尾:静岡市のヒアリング調査でも、「低学年のうちから知っておきたかった」、「小さいうちから知っておきたかった」という意見があり、悩みが深くなる思春期の頃より前の段階から、当たり前のこととして取りあげる視点が必要だと感じました。

遠藤:特別なものとして捉えると、性の多様性の授業のために1コマ割くことになってしまいますが、そうではなく、日常的なものの見直しという視点を入れることが重要です。実際にあった事例を紹介すると、毎月誕生日会をやっている幼稚園があり、これまでは男の子は青、女の子はピンクのリボンを付けたメダルを首から掛けてお祝いしていました。それを止めて、子どもに好きなリボンを選ばせて、メダルを首から掛けてもらうように変えたのですが、その方が皆嬉しいだろうし、性別の決めつけにもならなくて済むということで導入したのです。そういうことを日常的にどうやって気付いてやっていくかが大事だと思うので、年に1回特別な授業をするという話ではないと思います。

井上:弊社も特別な人がいるから特別なサービスをするという観点ではなく、多様な人や多様な考え方があるということが根付きさえすればいいと考えています。例えば、企業からすると、商業施設は歩ける人を前提で作ってしまっています。一人ひとり考え方や生き方が違うことがどれだけ根付けばいいのかというのをシンプルに考えていった時に、日本はどうしても多数派が少数派を理解してあげる、許容してあげるという考え方になってしまう。遠藤さんの話にあったように、今は教育現場が色々考えて取り組んでいますが、企業が今まで通りの一律の基準や物差しで測ってしまい優劣をつけてしまうこと自体が課題で、そのような社会を変えていかなければいけない。物差し一つで測っていくことを止めるというシンプルな発想をどう作っていけるかということです。

松尾:先ほど、女性のパンプスのサイズを広くして、最初は足の大きな女性が対象だったが、トランスジェンダー女性が購入してくれたという話がありました。そのように、色々な人たちがそこへ入ってくるという考え方ですね。

井上:その通りです。トランスジェンダーの方が買ってくれると想定していなくて、まずは成人女性の全員を対象にして、そこから買えない人をなくそうという発想で広げてみた。そうしたら、Twitterで「丸井は私たちの味方」というツイートを見つけて、何かと思ったらMTF(注)の方で、「えっ、味方なんだ」と驚いたり、「東京レインボープライド」に来てくれたMTFの方が、Twitterで「買えてすごく嬉しかった」、「また一つ私の夢が叶いました」というツイートがあり、自分の好きな靴を買うことさえ夢に思っている人がいることに衝撃を受けました。その方を接客した販売員は靴の販売なんかつまらないから辞めようかと思っていたみたいなんですが、「自分の接客が人の夢を叶えるんだ。」と感じて、俄然やる気が出たようです。やはり閉塞された日本社会の中で一つの物差しで見るのではなく、多様な人がいる前提で自分たちのやっていることすべてを見直すことは、誰かのためではなくて実は自分のためにもなるということ、子どもたちもそういう視点を持ってほしいと思います。そういう子どもがいることを受け入れましょうというより、そういう子たちと仲良くなれることが自分にとっても楽しいというポジティブな発想でいけば、随分変わってくるのではと思っています。

(注)MTF・・・生物学的な性が男性で、性自認が女性の人

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