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更新日:2024年2月15日

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性の多様性啓発座談会「LGBTにやさしいまち しずおかを考える ~私たちにできること、今ここから~」(4)

NPO、学校、企業の取組を繋げていく必要がある

井上道博氏

松尾:それに向けて何か動いていますか。

井上:色々な企業の方に一緒に取り組みませんかと声掛けをさせていただき、企業間の繋がりはかなり増えてきています。NPOに対してはまだ支援をするという形でしかないのですが、もう少し対等な関係で取り組めるような動きもいくつかあります。ただ、成功しているかと言えるかは難しいです。元々多様な方たちがいるので、何か一つのことをやっても、100人がいいよねとか100人が合っていると言うことはないのです。そう言うこと自体がおかしいので。逆に100人がいいと言っていることは、本当に皆の意見を拾えているのかと思うようにしているので、愚直にこのトライアルを止めないようにしたいです。企業はリスクヘッジのために、「これ大丈夫かな。これ反対する人がいるんじゃないか。」と思うとやはりやらない訳です。そうすると、ずっと社会が変わらないので、その一歩を踏み出せる企業をどれだけ多く増やしていくかということが重要です。「合っている」「合っていない」と言うことすらできない社会になっているのがおかしいです。

この前、東京の店舗のジュエリー売り場で、男性同士2人が来てくれて、ペアリングを買ってくれたらしいのです。販売員が聞くと、「僕たちが住んでいる地方では、とても二人でペアリングを買いに行けない。でも丸井だったら買えるかもと思って来ました。」と2人で楽しそうだったと。こういう事例をどれだけオープンにしていくか、もっともっと発信していきたいと思っています。

松尾:私は小学生から大学生までの話を聞くことが多く、学校卒業以降についてはよく知らないのですが、学校卒業後子どもたちがどうなるのだろうとの心配が今の話を聞いて期待に変わりました。

井上:心配ですよね。大学の先生からよく相談されるのですが、私たちが信念を持って、良い学校にしているのだけれど、「就職活動の時にどうですか。」、「会社に入ったら誰にも言えなくなりました。」という学生の相談が多いそうで、もう少しNPOや学校、企業の取組を繋ぐということをしていく必要があります。企業は良くも悪くも学校と少し違うのは、一つの物差しや決まりで企業活動をしていくので、多様性を認めることが企業のプラスになるというのをどれだけ植え付けるかだと思います。多様な人々が自分らしさを最大限に発揮して仕事ができることが企業のイノベーションと利益に繋がるということ、そこさえできていれば別に同性愛者でもトランスジェンダーでも自分らしさを出して働いてくれることが企業のプラスになるということをどれだけ具体的に示せるかということだと思っています。

弊社に対して、「そこまで活動しているのなら、LGBTQの社員でカミングアウトした人は何人いますか。」とよく聞かれるのですが、会社でオープンにカミングアウトしている社員は今のところいません。なぜかと言うと、当事者の社員は、「自分がゲイだと言ったところで会社にとって何かプラスになるのですか。同性愛者ということを生かして企業が伸びていったり、そういう仕事ができるのだったらカミングアウトします。だから井上さんの部署に呼んでくれるのなら僕はカミングアウトします。」と言う訳です。カミングアウトすることが目的ではないし、そういうところがもう少し企業に浸透して欲しいと願っています。

松尾:学校、企業の話を伺ってきましたが、行政と連携して事業を実施されている細川さん、今後行政に望むことはありますか。

細川:他分野との連携のサポートやそれに関係付随する専門相談の整備です。「にじいろカフェ」を例に挙げても、楽しい交流だけではなく、具体的な支援や相談を必要としている人がいます。例えば、トランスジェンダーの就労の悩み、制服や名前で悩んでいることを相談したいというのがあります。また、セクシュアリティとの関連が考えられるメンタルヘルスの相談もあります。啓発をすると相談を受けることになるし、相談を受けたらそこに具体的な対応が必要になるので、啓発をする以上は就労支援や学校の対応、それからメンタルヘルスの問題などで具体的・専門的な関わりができる仕組みをセットで整備する必要があるし、これは急ぎの課題です。

自分の会話の中で、多様性について肯定的に触れることが大事

松尾:最後に、どのようなことから始めていけば、性の多様性について皆が一緒に考えて一緒に生きていける社会になるでしょうか。メッセージをお願いします。

遠藤:やはり会話での言及を増やして欲しいです。「理解があるよ」、「自分は大丈夫だよ」と思って黙っている人がほとんどだと思うのですが、それだとあまり意味がないのです。だから、いかに自分の会話の中で多様性について肯定的に触れるかが大事で、例えば、「LGBTに関する映画や本を読んだよ」という話でもいいです。子どもに接する仕事の人であれば、大人自身が学んでいる姿を見せることがすごく重要だと思っていて、なぜ自分がこの勉強をしようと思ったのかを先生が子どもたちに話せば、生徒たちはそれを必ず聞いてくれるので、学んでいることを周りの人とシェアするというのが一番いいし、やってもらえたらいいなと思います。

井上:一企業だけがやっていくのではなく、企業同士がもっと繋がっていく必要を感じています。また、自治体や学校と企業が繋がっていくこと。それから、自分のことを素直に話せる場所を作っていったり、自分のことを話せると思える人をどれだけ可視化していくかということが、これから重要だと思います。弊社が自分のことを素直に話せる企業として可視化をどれだけするのかと一緒で、企業や自治体、個人も含め、自分のことを話せる人をどれだけ多く可視化していくかということがこれからの大きなポイントだと思っているので、そういったことをしっかり進められるように、動いていきたいと思っています。

松尾:性の多様性だけではなくて、色々な人がいるということですね。

井上:自分のことを誰にも話せないとか、自分らしさを出せる場所がないという人に対して色々な活動があります。「自分は話しても全然いい人なんだよ。」と言っている人はいるかも知れませんが、どこの企業がそういう企業で、どの自治体の誰がそういう人かは全然分からない訳です。いかにウェルカムの気持ちを持っていても、逆にそれが皆に伝わっていないと意味がないので、もっと可視化していくことが必要です。日本人は気持ちだけ持っていても、「俺は別にいいよ。」と発信することがタブーみたいなところがあるので、色々な自治体・企業・大学がもっと発信していければと思っています。

細川:「自分には関係ない」と思っている人こそ、多様性を認め合う際に最も大切な雰囲気や価値観を作り出している人たちです。そういう人たちにこそそこに気付いて欲しいですし、自分たちが牽引しているという意識を持って欲しいです。私自身はLGBTの当事者性がなく活動しているのですが、それはマジョリティの人に「これはマジョリティの問題で、マジョリティの課題でしょう」と伝えていきたいので、私は当事者性がないことをオープンにしてこの活動をしています。繰り返しになりますが、自分には関係ないと思っている人こそがこの課題を解決できる一番の当事者だということを知って欲しいという思いを持っています。本を読むというところからでもいいし、にじいろカフェに来ていただき様々な人と意見を交換するところから始めるなど、何か行動を起こしてください。様々な発見や価値観に触れることで自分の人生がとても豊かになる実感が持てると思います。

多様性とは「普通」がたくさんあること

松尾由希子氏

松尾:性の多様性に関わるようになって、人にとって幸せとは何だろうとか、良いことって何だろうということを、これまで以上に考えています。幸せって何だろうとなった時に、今まではマジョリティの仕様だったのではないかなと思うのです。例えば、異性愛だったら幸せになれるとか、シスジェンダー(注)だったら幸せだとか。でも、この世の中はマジョリティやマイノリティという区分で簡単に幸せを測れるものでもないと思います。だから、自分にとって幸せとは何なのかというのを改めて考えられる視点として、性の多様性に限らない「多様性」という言葉が必要なのだと思います。

今回は性の多様性についての座談会なので、敢えて限定して話します。性の多様性を知ることで当事者や非当事者関わらず、もっと自分について考えることができるし、可能性も広がってくると思います。私の知っている非当事者である大学生が友達からカミングアウトされたという話をしてくれました。カミングアウト後は、それまで無意識に異性愛を前提として「彼氏はいるの?」などと聞いていたことに対して、振り返りができるようになり、今は「好きな人はいるの?」という聞き方になったそうです。また、異性愛者である自分には結婚という制度について「する」「しない」の選択ができるのに、友達は選択できない状況にあることも認識して、非常に悲しい気持ちになったということも話していました。このように多様性を考えることで、自分について考えたり他の人についてもっと考えたりできるようになるという意味で、もっともっと深く、この世の中について考えられるのではないかと感じています。

本日、企業、学校、当事者支援団体のお話を伺いましたが、静岡市がこのような取組を進めていることは、人々の様々な生き方を支援することに繋がっているのではないかと感じて、非常に心強く思っています。多様性というのは結局「普通」がたくさんあるということだと思います。すべてのセクシュアリティが「普通」だと認識されて、井上さんが仰ったように色々な人がいることで、楽しいというようにポジティブに考えられる世の中になってくれたらと思いますし、そのようになっていくだろうと期待しています。

(注)シスジェンダー・・・生物学的な性が自認する性と同じ人

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登壇者プロフィール

松尾 由希子氏(静岡大学教職センター准教授)
長崎市出身。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程で博士(教育学)取得。専門分野・テーマはセクシュアリティ教育、近世近代教育史ほか。静岡市男女共同参画審議会委員を務めるほか、静岡市と連携し、学校における性的少数者の研究・支援に取り組む。

遠藤 まめた氏(LGBTユースのための居場所にじーず代表)
1987年埼玉県生まれ。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。LGBTユースのための居場所にじーず代表。教育関係者向けの講演多数。著書に「先生と親のためのLGBTガイド~もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

井上 道博氏((株)丸井グループ サステナビリテイ部ダイバーシテイ&インクルージョン推進担当課長)
1987年(株)丸井入社。婦人ブランドバイヤー、商品企画、店舗企画、中国事業プロジェクト、専門店事業等を経て4年前から「すべての人がしあわせを感じるインク ルーシブで豊かな社会」をビジネスを通じて実現するための現職に就任。

細川 知子氏((特非)しずおかLGBTQ+代表理事)
2013年に団体を立ち上げ、性的マイノリティ/マジョリティを問わずに参加できる語り場を定期開催してきた。その経験を生かし、現在は静岡市の委託事業やパイロット事業などを企画・運営しながら地域に密着した性的マイノリティ支援と啓発に携わっている。

※所属役職は開催当時

お問い合わせ

市民局男女共同参画・人権政策課男女共同参画・人権政策係

葵区追手町5-1 静岡庁舎新館15階

電話番号:054-221-1349

ファックス番号:054-221-1782

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