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更新日:2024年3月13日
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令和6年2月定例会施政方針
令和6年度の当初予算案、ならびにこれに関連する議案の審議をお願いするにあたり、議員各位をはじめ、広く市民の皆様にご理解を賜りたく、私の施政方針を申し述べます。
令和6年度予算は、私が市長に就任して初めての当初予算編成、施政方針の表明となることから、少々長くなることをお許しください。
市政運営の方針
初めに、私の市政運営に関する認識として、市政の運営は、行政経営であると考えています。企業経営と同様に、行政経営においても「経営目的・目標の明確化」「実行計画の策定」「継続的な意思決定」「計画を実行に移し、結果を出すこと」が重要です。
しかし、企業経営と行政経営では大きく異なる点があります。それは、経営資源の捉え方の違いです。企業経営では、自社の経営資源を用いて事業を行い、その社会効果を収入として内部化し、自社の収益を得ることが重要です。一方、行政経営では、経営資源は社会全体の力です。市役所組織や市有財産だけではなく、社会全体の力を経営資源として、それを有効活用し、社会全体への効果、社会的便益を最大化することが重要です。その社会全体への効果の一部が、税金として内部化されます。
まず、このことを意識した行政経営が大事です。よって、私は、「社会の大きな力がつながる」×「世界の大きな知が集まり、つながる」ことにより、新しい価値を共に創っていく「共創」、そして、その「共創を下支えし、伴走する市政」を市政運営の基本方針としています。
二つの例を挙げてみます。
一つ目は、資源・財産という点で、土地がわかりやすいと思います。地域経済の活性化、市民の所得の向上のためには、土地の有効活用が重要です。農地はそのほとんどが民有地ですが、現在、耕作放棄地など未利用・低利用地がまだらに数多く存在しています。この民有の未利用・低利用地をいかに有効活用していくかは、行政経営において重要です。
二つ目は、自治会活動などの社会活動や、地域社会の絆や心のつながりという無形の社会の力です。この無形の社会の力をどう有効活用していくか、その力をどう高めていくかについても、行政経営においては極めて重要です。
次に、行政経営において重要な「政策形成」と「政策執行」について述べます。
「政策形成」とは、何を実現すべきかという「経営目的・目標の明確化」と、それをどうやって実現するかという「実行計画の策定」です。政策形成によって策定した「目的・目標と実行計画」が総合計画と言えます。静岡市においては、令和5年3月に第4次静岡市総合計画、いわゆる4次総を策定しました。
一方、「政策執行」とは、目的・目標と実行計画を実現するための実施方法についての「継続的な意思決定」と「実行に移し、結果を出すこと」です。
このように、行政経営においては、「政策形成力」と「政策執行力」の両面が重要ですが、市民密着の基礎自治体行政においては、適切な政策執行で結果を出すことが必要です。
これまでの市政の分析・評価
この「政策形成力」と「政策執行力」の両面で、これまでの市政を分析・評価してみます。
「政策形成力」によって策定された4次総については、昨年6月、市長就任後の市議会6月定例会での所信表明において、「4次総については発展的に継承する」と述べました。現時点においても同様の考えであることから、4次総及び政策形成力については、本施政方針では言及いたしません。
一方、これまでの「政策執行力」によって、市政が結果を出してきたのか、について分析・評価したいと思います。
よく、財政健全化で結果を出したことが評価されます。もちろん、これは重要です。しかし、市政の経営目的は、財政健全化ではありません。財政の健全性を保ちつつ、いかに社会全体に大きな便益をもたらせたのかという成果が重要です。
市政運営による成果の評価においては、比較のために用いる指標が大事です。指標としては、市民満足度・市民幸福度や企業の満足度のように、この場所に住んでよかった、この地で活動してよかったという、主観指標も重要です。しかし、主観指標は、その値がどの程度ならよいのかという評価や、他の都市と比べて高いのか否かについての評価の客観性が確保しにくいという問題があります。やはり、客観指標による評価が必要です。
そこで、客観指標として、全国20の政令市と静岡県の社会状況についての各種統計値を用いてみます。地理的特性、気候、交通体系などは行政経営の基礎的資源とも言えますが、静岡市はこれらの点で、他の政令市に勝るとも劣らないのは、皆様、実感されていると思います。よって、20の政令市、そして属している静岡県との比較は適切と考えられます。
川崎市は、毎年度、20の政令市と東京都区部を合わせた21の地区を対象にした大都市データランキングを「カワサキをカイセキ!」として発表しています。このように、データを用いて市の状況を客観視することは大変重要です。この「カワサキをカイセキ!」のデータと、その他の統計データを用いて、社会状況の一つである人口動態を指標として、過去・現在・未来を見てみます。
人口の増減というのは、その地域の活力を表す一つのわかりやすい指標であると私は考えています。
まず、過去と現在です。1970年と2020年の人口の比較では、静岡県は17.6%増、浜松市は25.3%増、静岡市は1.7%増です。ここでは、旧の2市2町を静岡市としてみています。1970年、静岡市の人口は、東京23区を除いて、市町村では全国11位の人口でした。現在は20位です(図1)。5年毎の国勢調査の結果では、1990年が人口のピークでした(図2)。
2022年10月1日から2023年9月30日までの人口増減は、県が0.8%減、浜松市が0.48%減、静岡市は0.89%減です。内訳として出生数は浜松市4,821人、静岡市3,837人、社会増減は浜松市1,078人増、静岡市397人減です(図3)。2021年のデータでは、静岡市の人口自然増加比率、出生率は、20の政令市の中でいずれも19位です(図4)。
未来を見ると、国立社会保障・人口問題研究所が2023年12月に公表した予測では、2020年の人口と2050年の将来推計人口の比較において、静岡市は21.2%減です。20の政令市では、北九州市の22.4%減、新潟市の21.9%減に次ぐ18位となっており、厳しい状況です(図5)。
これらの3市は、平均年齢と65歳以上人口比率が高く、15-64歳のいわゆる生産年齢人口比率が低い状況にあります(図6)。そして、この3市は転入率と転出率が低い、すなわち人口流動率が小さいことも特徴です(図7)。
総じて言えば、現在の静岡市は出生数が少ないため自然減も大きく、さらに、人口の転出入という流動が活発でない割には人口の流出数が大きく、社会減が大きいことが加わって、人口減少が厳しい状況です。
しかし、これは現況だけで発生したわけではありません。1970年と2020年の比較が示すように、同様の地理的位置にある浜松市や、属している静岡県と比べて、あるいは他の政令市と比べて、人口の長期的な減少が厳しい状況にあります。このことは、その期間の市政運営が影響していると言わざるを得ないでしょう。先のデータが示すとおり、2022年10月から2023年9月までに生まれた子どもの数が3,837人、100倍しても38万人です。これから出生数の減少は加速します。社人研が2023年12月に公表した予測では、2050年までの30年間で人口が21.2%減、147,184人減少するとされています。この厳しい現実を市政は直視しなければなりません。このままの傾向が続いて2050年を迎えてはいけません。
それでは、なぜ静岡市は人口減少が厳しい状況にあるのでしょう。それには、出生率と婚姻率が直接影響していると考えられます。静岡市は、県平均、浜松市より出生率が低い状態が続いています。2013年から2017年平均で、合計特殊出生率は、県1.54、浜松市1.59に対し、静岡市は1.44と低く、この傾向は少なくとも1998年以降続いています(図8)。これには婚姻率が一つの要因として影響していることが考えられます。静岡市の50歳時の女性未婚率は、2000年の5.5%から2020年の17.2%に増加しています。この値は、浜松市、静岡県平均よりも高い状態です(図9)。50歳時の男性未婚率も同様の傾向です。
出生率には、経済状況や所得状況が影響すると言われています。そこで、静岡市の経済活力について見てみます。詳細は省略しますが、統計データから総じて言えることは、20の政令市の中で、静岡市は付加価値形成力が高い製造業が強みで、平均でみると一人当たりGDPと所得は比較的高いが、小売業、飲食業、農林水産業などは厳しい状況にある(図10~13)。そして、開業率は低く、有業者の平均年齢も高い(図14・15)。これらは産業の新陳代謝が弱いことを示しています。これらの経済指標が人口の流出入にどう影響しているかについては、詳細な分析が必要ですが、若い世代を惹きつける仕事が少ないのではないかと推測されます。出生率、出生数が低く、自然減が大きい、人の流出入も活発ではないという現実を市政は直視する必要があります。静岡市は、現在の予測どおりに2050年を迎えてはなりません。市政は、このことを強く意識する必要があります。
政策執行の課題
さて、厳しいデータを示すことになりました。市政の経営の良否がこの厳しい現実にどう影響しているかについて、因果関係を明らかにすることは困難ですが、「政策執行」に問題がなかったのか、検証を試みることが必要です。
厳しい人口減少状態にあるというこの現実に、何が影響しているかについては複合的な原因があると考えられ、詳細な分析が必要ですが、土地の供給量と価格の問題はよく指摘されるところです。
事業をするにしても、家を建てるにしても、土地の価格は大きく影響します。例えば、公示価格で、JR静岡駅と浜松駅からの距離別で市街化区域内住宅地の土地価格を比較すると、静岡市は浜松市より相当高い状態にあります(図16)。静岡市の土地の価格が高いことは皆さん実感されていると思います。このため、若い世代では静岡市内には賃貸、持ち家を問わず、家を構えにくいことが指摘されます。また、工場立地するのであれば、静岡市外のもっと土地の安いところに、となりがちです。
なぜ、静岡市は土地の価格が高いのでしょうか。全国市町村で6番目に広い面積を持つ静岡市ですが、可住地面積比率は24.3%で、1,242位です(図17・18)。
そして、市街化調整区域から市街化区域への変更も十分行われず、市内では、平地の市街化調整区域に、農地と住宅、車両置き場が混在しているという状況がよくみられます。
これは、長年の市政運営における、都市計画や農地行政が影響していると言わざるを得ないでしょう。これまで、無秩序な都市開発の拡大を防ぎ、農地を守るという考えのもと、土地利用について規制緩和することなく、市政運営を続けてきていないでしょうか。
まちづくりについては、特定の区画の再開発事業は行われてきました。しかし、近年の静岡市政は、大規模で面的なまちづくりを行ってきたでしょうか。例えば、JR東静岡駅の北側の用地は、面的まちづくりの絶好の場所でしたが、まちづくりが行われてきたとは言えないでしょう。新東名高速道路と連動した清水区内の畑総事業、東名高速道路の日本平久能山スマートインターチェンジと連動した土地区画整理事業など、面的な開発は行われていますが、まちづくりとは言い難いものです。その一方で、近年の用宗や人宿町、丸子のまちづくりなどは、どれも民間主導によるものです。
新東名高速道路の開通は、企業立地用地の創出には絶好の機会でした。しかし、インターチェンジ周辺では、畑総事業以外には産業用地造成はほとんど行われていません。
これらを総じて言えば、静岡市は、巨大都市圏に近接し、交通体系が充実している地理的特性を活かして、高度経済成長期に大規模な製造業が立地し、清水港の開発も進み、発展した。その後も県庁所在の商都として、1990年頃までは緩やかに人口増加を続けてきた。しかし、1990年に人口のピークを迎え、その後は静岡県平均よりも早い速度で人口減少が進んでいる。現在の静岡市は、高度経済成長期までに造られたまちの姿や産業経済基盤をもとにして、また県庁所在都市であり、商業的な中心地であることから自然に県内から人が集まり、県外からも支店が立地するという優位性や、主として、民間事業者が行う経済活動の活性化努力のおかげで、まちの経済活力を維持してきた、というと言いすぎになるでしょうか。
近年の静岡市政は、経済がうまく回る社会基盤・システムづくりなどの経済産業政策に重きをおいてこなかったと言わざるを得ません。
結果が出せる市政への変革
中期的な市政運営において課題があったのではないか、ということは見えてきました。次に、現在の静岡市政における「政策執行力」について述べます。
世界の経済社会環境はDXやGXなど、大きな変革期にあります。そして、静岡市の現状を直視してわかったように、静岡市は非常に厳しい状況下にあります。その中で、私たちは、今を生きる人が安心と幸せを実感でき、将来を担う子ども・若者たちが「このまちの未来は明るい」と夢を抱き、希望が持てる静岡市にしていく必要があります。
そのためには、これまでの延長上の市政運営はもう通じません。地理的にも恵まれ、交通体系は整い、気候は温暖で、人のこころが温かい、その静岡市において、人口減少が20の政令市の中で最も厳しい状況にある、浜松市よりも、県平均よりも厳しい状況にある、という現実を直視し、これまでの市政運営に変革が必要な時です。しかし、変革が必要という「思い」は重要ですが、思いだけでは変革はできません。市政の執行力を高め、結果が出せる市政への「具体的な変革」が必要です。
それでは、市政の執行力の何を変革すればよいのでしょうか。変えるべきものは多々ありますが、ここでは「政策執行の基本的考え方」に絞って4つを取り上げてみます。
1つ目は、「根拠と共感に基づく政策執行」です。
先に述べたように、市の経営資源は、社会全体の力です。社会問題は複雑で、行政がこれをやれば解決するというような単純なものではありません。市内外の社会の中にある「大きく多様な知を持つ人や企業などの多様な主体」が「共鳴・共働」し、社会の大きな力を結集して社会問題の解決や、新たな価値や魅力を「共創」する時代です。
その時に重要なことは、市政に対する市民や社会からの信頼と共感です。その政策目的と政策執行方法を選んだ「根拠」を明らかにし、「なるほど、それならいいね、自分たちも一緒に取り組もう」と「共感」していただけることが重要です。よって、「根拠と共感に基づく政策執行」が重要です。
2つ目は、「利益を生み出す部門への投資を増やす」ことです。
ここでいう利益は、単なる市の財政上の収入ではなく、社会全体の便益です。
スタートアップを例にしてみます。スタートアップとは「新たな価値を創造する力を持った企業」と言えます。産業の新陳代謝を促進し、新たな価値を生み出すためには、スタートアップとの連携は極めて重要です。
令和5年度予算のスタートアップ関連予算は2,100万円でした。産学官連携促進のための予算2,069万円を加えても、合計で4,169万円です。これでは、これまでの市政は、新たな価値を生み出すことに重点を置いてこなかったと言わざるを得ません。令和6年度の予算では、これを大幅に増額します。
3つ目は、「財産の有効活用」の問題です。
近年、静岡市はアセットマネジメント推進課を設置し、市有財産の活用に力を入れてきたはずです。しかし、結果は出ていません。
それは「政策よし」「執行力に問題あり」だからです。市有財産の土地がどこにどれだけあって、それが有効活用されているか否かについてのリストがありません。このため、長らく放置されている市有財産が多数存在します。また、所管課はそれを認識していても、自分の所管行政の範囲内で有効活用策を探すため、いつまでたっても活用されない例がほとんどです。廃校となった学校施設がその典型です。
よって、令和6年度からは新たな組織を設け、本気で市有財産の有効活用を進めます。もちろん、市で直接活用するだけではなく、社会全体の力で活用します。
また、最初に述べたように市政の経営資源は、市有財産だけではなく、民有財産も含める必要があります。しかし、これまで民有財産の有効活用に、市政として正面から取り組んできませんでした。むしろ、規制をかけすぎて活用を制限してきたとすら言えます。これを改め、例えば、まだらに存在する耕作放棄地をまとめて、高度営農用地とその他利用の用地に集約することを積極的に進めます。新たな組織を設置し、社会全体の財産である未利用・低利用の民有地を有効活用し、社会的利益を生み出せるようにします。
4つ目は、「子育て・教育環境の充実」です。
これまでの静岡市政の中で、福祉行政においては、静岡型のシステムの導入などを進めてきたことは評価できます。子育て教育環境の充実にも力を入れてきており、一定の成果をあげていると思います。子育て教育環境の向上は、未来への投資です。今の暮らしに希望を与え、未来に社会的便益や市民の幸せをもたらします。したがって、これからもその充実に努めることが必要です。
しかし、これまで取り組んできたにもかかわらず、静岡市の人口減少は政令市の中で最も厳しい状態にあります。やはり、子育て教育環境の充実についても取組が不十分だったと言わざるを得ないでしょう。
この際、「子育て・教育環境」とは、保育や教育の充実だけではありません。同時に「働きやすく・所得が高い」ことも重要です。このため、これまで取組が不十分だった働きやすさや経済の活性化のための投資が必要です。
今そこにある子育て・教育環境上の問題を解決するため、公的支援や社会との共働により充実させることで、暮らしにおける安心感を高めるとともに、働きやすく、収入を得やすくし、経済的な安心感を高める。この両面での子育て・教育環境の充実を進めることが必要です。
当初予算編成の考え方
市政の基本方針、すなわち「『社会の大きな力がつながる』×『世界の大きな知が集まり、つながる』、市政はそれを下支えし、伴走する」という市政に変革するため、予算編成において、次の3つの点を重視しました。
1つ目は、「社会全体の力で社会課題を解決することを意識した予算編成方法への変更」です。
これまでは、社会課題に対し、その解決のための事業、その事業のための予算、という形で予算編成を行ってきました。市が予算を使って事業を行い、社会課題を解決する、という考え方です。
これでは、社会課題を市の事業の執行だけで解決するという形になってしまいがちで、社会の大きな力の活用につながりません。このため、予算協議の際に、「社会課題は何で、その課題の原因はどこにあり、それをどういう方法で解決するか」の検討を徹底して行いました。そして、事業を実行しましたという「結果」(アウトプット)ではなく、事業を含む様々な取組によって社会課題をいかに解決するか、という「成果」(アウトカム)を意識することを徹底しました。
2つ目は、「社会の大きな力を活用した市政の経営資源、財産の有効活用」です。もちろん、この経営資産は、市有財産だけではなく、社会全体の財産です。
まず、市有財産について、例えば、廃校となった学校の跡地は、教育委員会が所管し、教育委員会としての利用を考えていたため、これまで有効に活用されないままの状態が続いていました。そこで、借地の整理など条件が整った市有財産の所管を、順次、教育委員会から市長部局に移し、民間事業者のノウハウを活用し、有効活用策を考えることにしました。
次に、社会全体の財産の活用です。令和5年度に実施した市民意識調査では、子育て環境における希望が多い項目は、「雨の日に子どもを安心して遊ばせられる場所」でした。このため、この場所を市が自ら建設して提供するだけではなく、すでにある社会全体の財産を活用できないか考えました。この結果、まず、最初の取組として令和6年度予算では、清水駅前銀座商店街の空き店舗とアーケード下の空間を活用して、子どもの遊び場の設置に取り組むことにしました。取組にあたっては、行政のみでこれを解決するのではなく、取組に共感いただいた地元関係団体や店舗にもご協力・ご提案をいただきます。場所の運営については、地域の方々に担っていただき、市は負担金という形でこれを下支えし、伴走します。
さらに、耕作放棄地の拡大や空き家の増加が進む中、こうした土地等を有効活用できていないという課題があります。耕作放棄地などの未利用・低利用地を集約・再編し、一団の高度営農地やその他の用途に利用することや、空き家を流通させることなどを通じて社会全体の財産を有効活用するため、新たな組織の設立を進めます。
3つ目は、「世界の大きな知が集まり、つながるための下支え」です。
新たな価値を生みだすためには、スタートアップとの連携が重要ですが、これまで十分な予算を確保していませんでした。新年度は予算を10倍以上に増額し、スタートアップの力を活用して、自治会活動の負担軽減や地域の見守りを担う人の確保といった、行政課題・地域課題の解決を図る取組や、市内の学生を対象に起業家を育む取組などを実施します。
さらに、駿河湾という多様性に富んだ海を有する本市の「場の力」を活かし、県、MaOI機構、市内外の大学、JAMSTEC等の研究開発機関との連携による連合大学院の創設や研究開発の促進を通じ、本市を海洋研究・海洋産業の世界的拠点にしていくことを目指します。
このような予算編成の考えのもと、多数の新規事業や事業内容の変更を含む予算を編成しました。
これらの政策を執行するための令和6年度当初予算の内訳は、
一般会計3,534億6,000万円
特別会計2,523億5,380万円
企業会計799億2,540万円
全会計で6,857億3,920万円です。
予算編成にあたっては、内閣府のデジタル田園都市国家構想交付金や地方大学・地域産業創生交付金、国土交通省の社会資本整備総合交付金といった各省庁の予算等を積極的に活用しています。
組織機構改編の考え方
次に、新年度に改編する組織について、ご説明いたします。
先に述べたように、市政を運営するためには、「政策形成力」とともに政策を実現するための力、「政策執行力」が重要です。そして、その両方を高めるためには、「組織づくり」と「人づくり」が極めて重要です。
これまでの市政の一番の問題は、縦割り行政があまりにも強すぎて、複雑かつ複合的な問題には対処できなかったことです。
そこで、新年度は、局や部、課などからなる「縦の行政組織」の改編にとどまらず、これらの垣根を超えた横串を刺す組織、「チーム組織」を明確化することで、「縦の行政組織」×「横のチーム組織」の形で、政策形成力と政策執行力を高め、結果を出す市政に変革します。
まず、「縦の行政組織」についてです。新年度に向けては、「子育て・教育環境の充実」「地域経済の活性化」「安全・安心の確保」の3つの柱を基本として、行政需要の変化に柔軟に対応し、迅速な市政の変革を図るために、必要な体制整備を行います。
第1に、「子育て・教育環境の充実」についてです。子育て世帯を包括的に支援するため、各区役所福祉事務所の子育て支援課に「こども家庭センター」を設置するとともに、相談支援体制を強化するための人員を増やします。
また、子育て教育政策に係る総合調整と司令塔としての役割を果たすため、子ども未来局に局次長級の「子育て教育政策監」を配置するとともに、児童相談所などの人員も増やし、体制を強化します。
第2に、「地域経済の活性化」についてです。企業立地の推進体制を強化するため、経済局内に新たに「産業基盤強化本部」を設置するとともに、局次長級の「産業基盤強化本部長」を配置します。
また、まちの魅力を向上させるための、統一した都市デザインによるまちづくりの推進に向け、都市局の都市計画課、市街地整備課、建築総務課を再編し、「景観まちづくり課」を新設します。
第3に、「安全・安心の確保」についてです。危機管理体制を強化するため、全庁的な危機対応の要となる危機管理総室について、部相当組織から局へ移行し、危機管理監兼危機管理局長を配置します。また、昨年5月に施行された、いわゆる「盛土規制法」に対応するため、都市局の開発審査課に「盛土対策係」を新設します。
次に、「横のチーム組織」についてです。この「チーム組織」は、定期的な組織機構改編や異動時期を待たずとも、複合的な問題や新たな制度づくりなど、特定のプロジェクトの目的や内容に応じて、適宜、各局部課から横断的に職員を集め、柔軟にチームを編成するものです。
チームリーダーとチーム員から構成される、階層が少ない、いわゆるフラットな組織とし、自律性を高め、判断・決断のスピードを上げていきます。
例えば、現在、アリーナ整備の検討業務は企画局が実施していますが、新年度はこれを文化・スポーツを所管する観光交流文化局に移管した上で、そこに令和6年度から改編する総合政策局や、経済局、都市局、建設局などの職員を集め、「アリーナと東静岡のまちづくりプロジェクトチーム」を立ち上げます。
このように新年度は、「縦の行政組織」×「横のチーム組織」により、社会問題に対し、組織間でたらい回しをせず、責任感を持ちつつ、自由な発想が生かされ、自律的に行動できる新しい組織づくりへの第一歩を踏み出します。
一方で、複雑で高度な行政課題に対応するためには、市の組織を強化することに加え、「社会の大きな知」を活用した「人づくり」も大変重要です。
令和6年度は、専門性の高い外部人材を積極的に登用し、組織の外にある「知識・経験」を組織内部に取り込み、新しい施策を実現するとともに、既存の職員が外部人材と共に事業に取り組むことで、職員の政策立案力や問題解決力の育成を図ります。
具体的に、現在、登用の準備を進めている人材として、DX政策監、観光政策監の2つのポストを、外部から招聘する考えです。
DX政策監は、デジタルトランスフォーメーションに精通した方を招聘し、行政のDXについて、持続的に成長させていく仕組みを構築し、施策に実装していく役割を担います。
次に、観光政策監は、国内外での職務経験を通じ、観光関連の豊富な知識や経験、関係者との幅広いネットワークを有する方を招聘し、観光施策の企画立案や観光戦略を推進する役割を担います。
こうした外部人材を登用することで、DXや観光の分野において、従来の枠組みに捉われない新たな施策を打ち出すことができるようにするとともに、行政の仕事のやり方を変革し、職員の意識改革を図ることを目指しています。
市政変革研究会の委員の皆様には、実態上は市政の実務に対し、貴重な知見をいただきつつ、政策形成、政策執行に加わっていただきます。
市の職員が、外部の人材と積極的に交流することで「内省」が起こり、自発的に変化していき、それが市政の変革につながることを期待しています。
以上が、組織機構改編の考え方についてです。
むすびに
「政策」についてもう一度述べます。行政における「政策」とは、「その行政機関の行政運営上の方針や方策」と言えます。この方針や方策には、総合計画策定などの「政策形成における方針・方策」と、その計画をいかにうまく実現するかという「政策執行における方針・方策」の両方があります。
国政や県政においては、「政策形成」が重要ですが、基礎自治体である市政においては、住民に最も身近な行政主体として、的確な「政策執行」でよい結果を出すことが重要であると考えています。それにもかかわらず、これまでの市政においては、「政策執行」に関する取組が重視されていませんでした。
冒頭で述べたように、静岡市は、浜松市や静岡県、他の政令市と比べて、厳しい人口減少の状態にあります。これは「政策形成」に問題があったのでしょうか。私は、どういう政策に予算を重点配分するかを含めて、「政策執行」に問題があったのだと考えています。
同じ子育て環境関連の予算項目、同じ予算額でも、その予算を「事業実施のための予算」と考えて、予算どおり事業を実施して、計算どおりの事業内容という、アウトプットを求めるのか。それとも、その予算は「子育て環境の充実という社会効果を最大化するための手段の一つ」と考えて、予算を呼び水にして社会全体の力を活用し、「共創」によって、より大きな成果・アウトカムを得るのか、では、社会効果は大きく異なります。
これまでの静岡市政は、せっかく良い政策を立てても、それを執行する段階で手戻りが生じたり、あるいは縦割り組織の中で自分たちが計算できる範囲内の取組に限定してしまい、社会の大きな力の活用不足で投資効果を最大化できなかったり、ということが問題でした。城北公園の問題など、その例は多数あげられると思います。しかし、政策執行力は、外部からは見えにくいので見過ごされがちになります。
会社に例えると、商品の企画力は優れ、社員の一人ひとりは優秀。しかし、工場の生産システムと生産ラインの改善に注力していないため、できた商品の品質が良くない。よって売れない。その結果、消費者満足と会社への信頼度は低く、会社の業績も良くないという状況です。
令和6年度の市政運営においては、「政策執行力」を飛躍的に向上させ、貴重な予算を有効活用してまいる所存です。
議員各位をはじめ、広く市民の皆様のご理解、ご協力をお願いし、社会全体の力による「共創」で「安心感がある温かい社会」づくりを進めてまいります。
ご清聴、誠にありがとうございました。