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更新日:2025年2月10日
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令和7年2月定例会施政方針
令和7年度の当初予算案、ならびにこれに関連する議案の審議をお願いするにあたり、議員各位をはじめ、広く市民の皆様にご理解を賜りたく、私の施政方針を申し述べます。
私の市政運営の方針や考え方は、市長に就任してから変わっておりませんので、昨年度の施政方針と重なる部分があることをお許しください。
市政運営の方針
市長に就任し、まもなく2年となります。私は、就任前から、「静岡市政は、政策形成ではなく、政策執行に問題がある。静岡市の仕事のやり方・進め方の変革が必要」と述べてきました。
「政策形成」とは、どういう政策・取組をするか考え、決めることです。「政策執行」とは、その政策を実行することです。実行するからには、結果を出さなければなりません。
「政策形成」は、例えば、第4次静岡市総合計画、いわゆる4次総の策定です。これは組織の外部からも見えます。一方で、「政策執行」の過程の詳細は外部からはなかなか見えません。いわば、工場の生産ラインの細部が外部からは見えないことと同じです。
したがって、市長になって、組織の内部に入り、「政策執行」の過程、すなわち、政策を執行する際に、誰が何をどう考え、誰がどう判断し、どう行動をするのかを見ました。その結果、やはり、静岡市政は「政策執行」に大きな問題がありました。それは、例えば、市民の声の認識の仕方、法令の解釈の仕方、縦割り組織間の連携、社会との協働・共創の方法、社会へ伝わる説明の仕方などです。今でも、「まだそんなことをやっているのか」ということがしばしば発生しますが、相当改善されました。
さて、現在は、加速する人口減少、AIの急速な発展、地球温暖化の進行など、まさに歴史的転換期にあると言えます。このような時代に、過去からの延長上の取組を続けてはなりません。「新たな方法による、新たな価値の創造・共創」が必要な時代です。
しかし、「執行力」「実行力」に問題がある組織が何か新たなことをやっても、必ず何か失敗するといっても過言ではありません。
このため、市長就任後の最初の1年間は新しいことは控えめにし、「執行力」の改善に重点を置いて取り組んできました。
職員との日々の打ち合わせの中で、執行方法の具体的改善を求め、指示し、ときにはいわゆる自分で「やってみせ」を行い、一つひとつ改善してきました。
例えば、皆様は、市職員(執行部)に対して、何かについて「できる」か「できない」かの判断を求めたときに、「それは難しいです」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
私は、あることが「できる」か「できない」かという行政の判断において、「難しい」という判断はないと考えています。「難しい」は問題の解説、又は、問題の先送りでしかありません。本来、「難しい」は「やればできるかもしれない」ということを含んでいます。だから、難しい問題であっても「難しい」で思考停止・行動停止しないで、解決できるように前に進まなければなりません。もし、「難しい」が「できない」あるいは「やってはいけない」ことであれば、「難しい」ではなく「こういう理由で」という根拠を示した上で、「できません」と答えるべきです。
「難しい」「検討します」という答えで、相手方が「ひょっとしたらできるのでは」という期待感を持ってしまい、本当は市民が何年同じ要望を続けても「できない」ことなのに、市民は「できるかもしれない」と同じ要望を続けることになってしまいます。
一方、これまでの市政は、本当は「できる」のに「難しい」「できない」とする事例が多くありました。
私は、担当職員が「法律に書いてあるので、できません」と言ったときは、必ず、法律の条文を持ってきてもらい、その記述を確認します。すると、法律には「できない」と書いていないときがあります。そこで、「法律にはできないとは書いてないけど」と言うと、「運用指針に書かれています」という答えが返ってきます。運用指針を確認すると、その解釈が適切でなく、不適切な運用がされている、ということがしばしばありました。長年、現状のやり方に疑問を持つことなく、あるいは、担当者の裁量で、不適切な規則や指針の運用を行い、社会の足を引っ張っている。これを変革していかなければなりません。
市長の仕事の仕方としては、大きな方針を出し、実施は執行部に任せるというやり方ももちろんあります。
しかし、今の静岡市政は、私が実務家公務員のトップとして、法令の運用方法まで含めて、細部に目を凝らさなければいけない状況です。市政の執行実務の変革、現在も、これが市長の仕事として重要と考えています。
附属資料として、1月27日の私の日程を示しました(附属資料1)。このように、「多数の事項について職員と打ち合わせをし、方針決定する、社会の声を聴く、外に出て自身の考えを伝える」ということを続けてきました。
そして、約2年、市の行政経営の「執行力」は相当改善されました。いわゆる、足腰が少ししっかりしてきたという状態です。これを踏まえて、市長任期4年の後半は、本格的に「政策の見直し」、例えば、4次総の見直しに着手します。
さて、私は「根拠と共感に基づく政策執行による新たな価値の共創」を重視しています。例えば、人口減少問題については、静岡市の人口減少の現実と将来予測結果を直視し、その原因分析を行うことが政策執行の「根拠」となります。
静岡市の人口減少は、他の政令指定都市と比べ最も厳しい状況下にあります。1970年に同じような人口規模で、現在、政令指定都市の福岡市、岡山市、熊本市と比べてみます。1970年に現在と同じ市域だったとすると、静岡市は、1970年に人口が約68万人でしたが、2024年には約67万人と1970年の人口を下回りました。福岡市は1970年に約87万人、2024年には約166万人と倍増しています。岡山市は約50万人が約71万人と約21万人の増、熊本市は、約53万人が約74万人と約21万人の増です。福岡市は事実上、九州の首都であり、静岡市とは都市の性格が違うという意見もあるでしょう。しかし、岡山市、熊本市は地域の首都ではなく、静岡市と同じ県庁所在都市の一つです。同じ静岡県内の政令指定都市である浜松市は、1970年に約63万人、2024年に約78万人と約15万人の増、静岡県は約309万人が約352万人と約43万人の増です。
この違いが、なぜ生じたのでしょうか。もちろん、様々な原因があると思いますが、根底には、静岡市が他と比べて人口減少が厳しい状況にあるという現実を直視せず、その原因分析を行わず、具体的対策をとってこなかったことによるものと考えざるを得ません。具体的には、出生率・婚姻率が長年にわたり県平均よりも低いこと、「市内大学の入学定員数÷市内高校生の大学等進学者数」で求められる大学収容率が現在104%であるという優位性を活かすことなく、大学卒業時の人口流出対策を十分とってこなかったこと、新規企業立地用地創出のための土地造成を行わず、産業の新陳代謝を促してこなかったことなど、様々な原因・要因が考えられます。要因の根底にある原因にまで深掘りして、静岡市は本気で人口減少対策に取り組む必要があります。
静岡市独自の推計方法による将来人口予測では、2050年には49.2万人に、0歳人口は2,600人になるという、まさに大変厳しい現実を突きつけられる結果となりました。
この数字は、あくまで特段の人口減少対策をとらず、何もしなければこうなるということを示したものです。決してこのような2050年を迎えてはなりません。抜本的な人口減少対策が必要です。
このような強い危機意識のもと、令和7年度の当初予算編成と組織機構改編を行いました。
当初予算の概要
令和7年度当初予算について、説明します。
予算規模は、
一般会計3,885億円
特別会計2,631億9,790万円
企業会計784億4,150万円
全会計で7,301億3,940万円です。
このうち、一般会計の予算額については、前年比9.9%の増で、規模だけで見れば積極財政に見えます。しかし、内容は、待ったなしの状態の施設・設備の更新や維持補修に要する経費を予算化したことが大きな原因です。具体的には、消防ヘリコプターの機体更新に約29億円、消防総合情報システムの更新に約25億円、市有施設のLED化に約16億円、学校の特別教室の空調設置に約8億円を計上しています。また、社会基盤整備も、例えば道路整備予算約199億円のうち、約51%の約102億円が維持補修です。これに扶助費の増、約88億円が加わります。
今は積み残されている維持補修に予算を使いながらも、「今を生きる人が安心と幸せを実感でき、将来を担うこどもや若者が夢を抱き、希望が持てる静岡市の実現」に向けた取組を予算に組み込んでいかなければなりません。当初予算では「子育て支援・教育の充実と健康長寿の推進」「災害対応力の強化」「地域経済の活性化」「文化・スポーツを活かしたまちづくりの推進」「社会変革の促進」の5つの分野に予算を重点配分しました。その中で、これまでの静岡市に不足していた取組や投資を加速する必要があります。
当初予算編成の考え方
予算編成において、重視した考えは次の3点です。
1つ目は、「人口減少対策の強化」です。
1月に最終報告を行った「静岡市の人口減少の要因分析と対策に向けた調査研究」を踏まえ、仕事と子育てが両立しやすい環境の整備や、若者が就職を希望する企業の立地、移住希望者に対する住宅や土地の購入・改修の支援など、人口減少対策のための新たな取組を予算に盛り込みました。
例えば、仕事と子育ての両立の支援については、市内に病気になったこどもを預かる病児・病後児保育室を3施設設置していますが、利用のための手続きが煩雑、事前にかかりつけ医の受診が必要という問題があります。その結果、使い勝手が悪く、十分にサービスの利用がされていません。このため、オンラインでの空き状況の確認や予約申し込みが可能となるシステムをこの2月から導入しました。7年度は、これに加え、こども園等への登園後にこどもが急な体調不良になった際に、看護師が保護者に代わって園への迎え、診察の付き添いなどの対応を行う病児・病後児保育室を新設します。
また、「住宅の確保」や「就職」が移住を検討する際の重要な要素であることから、移住者を対象とした市独自の助成制度を創設し、東京圏などから移住者を積極的に呼び込みます。
2つ目は、「社会共有資産の有効活用の推進」です。
市の経営資源は、社会全体の力、財産です。このため、市有財産だけでなく、民間が持つ財産も“社会共有資産”としてとらえ、これらを有効活用することが重要です。
まず、市有財産については、未利用地等の積極的な売却、活用を進めます。このうち、市営住宅の空き室・跡地を移住者や子育て世帯向けに提供するとともに、廃校となった校舎等の民間事業者による利活用を積極的に進めます。
次に、社会全体の財産の活用です。耕作放棄地の拡大が進む中、これらを一団の高度営農用地や企業立地用地として有効活用するため、農地の移転に対する助成制度を創設します。昨年8月に設立した静岡市土地等利活用推進公社と連携して農地の集約を進めます。
さらに、現在、処理に苦慮している建設発生土について、受入場所を市が市内に確保してコスト削減を実現するとともに、その建設発生土を土地整備に有効活用するための仕組みを構築し、7年度中に運用を開始します。
3つ目は、「共創による取組の推進」です。
社会が大きな変革期にある中、多様かつ複雑な社会課題の解決や新たな価値・魅力を創造するためには、「社会の大きな力」と「世界の大きな知」がうまくつながるよう、市がそれを下支えし、伴走する「共創」の取組が必要不可欠です。
7年度は、スタートアップなどの優れた技術・サービスを活用して地域課題の解決を図る取組を推進するため、出資による支援を拡大します。これまで対象としていた環境分野に加え、海洋分野にも対象を拡げ、社会実装、事業化する企業を下支えします。
さらに、静岡市ならではのガストロノミーツーリズムを推進するための取組や、木材の適正な価格での取引や流通の効率化を推進するためのプラットフォームの構築など、専門家の知見を得ながら、多様な関係者が連携・共働して取り組む新たな事業を予算に盛り込みました。
こうした市による公的投資や仕組みづくりが土台となり、民間投資を呼び込むことで、地域経済の活性化や新たな雇用が創出されるという好循環を生み出す仕組みを構築します。
このような考えで編成した7年度当初予算を活用し、市政の変革を加速させます。
また、編成にあたっては、新たに拡充された内閣府の「新しい地方経済・生活環境創生交付金」をはじめとする各省庁の補助金・交付金や、緊急防災・減災事業債などの償還に地方交付税措置のある市債を積極的に活用しています。
組織機構改編の考え方
次に、新年度に改編する組織について、説明します。
先に述べたように、私は就任以来、「政策執行力」の強化に取り組んできましたが、まだまだ十分とは言えません。局と局との連携は進んではいますが、依然として縦割り行政による壁・垣根が存在します。
そこで、新年度は、縦割りの壁の解消のため、局、部、課などからなる「縦の行政組織」と、これらの垣根を超えて横串をさす組織である「チーム組織」を編成し、この「縦の行政組織」×「横のチーム組織」の形で、「政策執行力」を高め、結果を出す市政をさらに進めます。
まず、「縦の行政組織」についてです。
新年度に向けては、「子育て支援・教育の充実と健康長寿の推進」「災害対応力の強化」「地域経済の活性化」「社会変革の促進」の4つの柱を基本として、行政需要の変化に柔軟に対応し、迅速な市政の変革を図るため、必要な体制整備を行います。
1つ目は、「子育て支援・教育の充実と健康長寿の推進」です。
幼児教育の推進体制を強化するため、こども未来局内に研修・相談機能を併せ持つ「幼児教育センター」を新設します。これまでは市立が中心であった取組について、私立にも重点を置き、市立と私立とが一体となった教育・保育サービスの質の向上を図ります。合同研修会の開催や双方の園に幼児教育アドバイザーを派遣し、保育士が相談することができる環境を整えます。
また、高齢者等の“もしも”のときに備えて、ご自身の葬儀や家財処分などに不安を持たれる方に対し、市が事業者と連携し、不安の解消をサポートするなど、これからの人生を自分らしく、安心して過ごせるよう、保健福祉長寿局内に、市民の皆様のエンディングサポートを行う「安心感がある温かい社会推進課」を新設します。
2つ目は、「災害対応力の強化」です。
下水道区域内の雨水対策に係る計画部門を、上下水道局から建設局の河川課に移管し、同課に総合治水担当課長を配置します。雨水対策を集約・一元化することで、頻発する内水被害への対策強化を図ります。
3つ目は、「地域経済の活性化」です。
「静岡市アリーナ基本計画」に基づき、7年度はアリーナ事業が本格化する中、これに専属的に取り組む「アリーナ整備・公民連携係」を総合政策局の社会共有資産利活用推進課に新設します。
4つ目は、「社会変革の促進」です。
農業政策課に「みどりの食料システム係」を新設し、有機農業推進システムを構築します。
また、森林政策部門を経済局から環境局に移管します。環境局内に「森林経営管理課」を新設するとともに、局長級の「森林経営統括監」を配置します。この新体制により、市内の森林を「森林の有する公益的機能の高度発揮を目指す“環境林”」と「森林の有する公益的機能に配慮しつつ、木材生産を主体として資源の循環利用を行う“循環林”」とに区分し、区分に応じた新たな森林経営管理を行います。
次に、「横のチーム組織」についてです。
既に新年度に向け、例えば、学校の部活動から地域クラブ活動への転換を図るため、総合政策局、市民局、観光交流文化局、教育局の職員による「しずおか地域クラブ活動推進プロジェクトチーム」を6年11月に、持続可能な生産・調達、加工、流通、消費といった“食と農に関する地域循環システム”を構築するため、総合政策局、経済局、教育局の職員による「静岡食と農システムプロジェクトチーム」を7年2月に、それぞれ立ち上げました。
このように、新年度も「縦の行政組織」×「横のチーム組織」により、社会問題に対し責任感を持ち、自由な発想が生かされ、自律的に行動できる組織体制を構築します。
4次総の見直し
ここで、4次総の見直しの基本的考え方の一部について簡潔に述べます。これは、実務家公務員のトップである市長の仕事としてではなく、将来像を示すリーダーとしての市長の考え方を示すものです。
最も大事なことは「まちづくり」の基本的考え方の転換です。まちづくりにおいては、歴史に学び、時代認識を持ち、将来像を描くことが重要です。
現在の静岡市のまちの姿は、今川氏の城下町、徳川家康公の駿府の町割りと東海道53次、57次の宿場町の整備が基礎になっています(附属資料2)。このときのまちづくりは、その時代の農業や手工業を主とした産業構造と「歩く」を主とした交通手段を踏まえた、職住近接のまちづくりと街道づくりでした。
その後、明治になって、鉄道が発展し、産業革命が起き、職と住の場の分離が進み、さらに、昭和になって自動車交通が発展し、人口の急増に対応した郊外に広がるまちづくりが進み、現在に至っています。
さて、今は、まちづくりにおいて、歴史的転換点に立っていることを認識しなければならないと私は考えています。詳細は省略しますが、人口減少社会、インターネットやAIの急速な発展、車の自動運転化、脱炭素化社会などを踏まえ、再び「職住近接」「歩きと新交通システムの融合」の新しいまちづくりへの歴史的転換期にあると考えています。もちろん、中山間地においても、自然の豊かさを活かした職住近接の新しい暮らし方が重要です。このような時代認識を持って、新しい時代の新しいまちづくりを主眼において、4次総の見直しを行います。
むすびに
市長就任後の約2年間、地道に一歩一歩、市政運営の基盤となる「政策執行力」を向上させてきました。
7年度の市政運営においては、市政の変革をさらに進め、貴重な予算を有効活用して、結果が出せる市政とします。
議員各位をはじめ、広く市民の皆様のご理解、ご協力をお願いし、社会全体の力による「共創」による「安心感がある温かい社会」づくりを進めてまいります。
ご清聴、誠にありがとうございました。